2008年 | ||
[第45号]多様な人々への働きかけに着目したエイズ事業 | ||
代表理事 永岡 宏昌 ほとんどどこでも、地域にはいろいろな人々が暮らしています。子どもから老人、男・女、リーダーシップをとる人・ついてくる人・反発する人、仲がよい人・悪い人、経済的に豊かな人・困っている人、病気や障害をもつ人・今はそうでない人等々。地域社会は、さまざまな「違い」をもち、さまざまな状況にある人たちが、一定の空間を共有する場である、といえるのではないでしょうか。 当会が設立以来取り組んできた開発協力は、地域社会が考える「豊かさ」に向かって、自律的に行動することへの協力といえます。その地域社会とは、これら「違い」をもった人々の集合体であり、そこに何らかの働きかけをすることで、向上への変化を促してきました。 働きかけは、必ずしも直接的なものではありません。例えば、当会のエイズ事業では、地域のHIV陽性者への直接、具体的な支援は行なっていません。ムインギ県では多くのHIV陽性者が暮らし、「エイズが日常化した社会」ともいえる状況になっていますが、当会は地域社会への取り組みを考えました。 エイズについては、これまでさまざまな情報が地域にもたらされました。エイズの脅威のみを強調するものであったり、不道徳な性交渉と強く関連づけられたりするものが主流を占めています。そのため、多くの住民はエイズを恐れるあまり思考が滞ってしまいます。エイズについてしっかり理解して、HIV感染を予防し、かつ、HIV陽性者と共生していこうという意識にはならないようです。 当会が取り組んだのは、学校の教員や地域のリーダー、そして一般住民など多様な大人への働きかけです(HIV陽性者も、「エイズの影響を受けた人」も参加できるよう配慮)。保健やエイズに関する知識、技能などを広範に提示し、不道徳な性交渉の問題としてではなく、日常生活の中でさまざまな感染リスクがあることと、その予防手段を理解してもらうことが基盤だと考えました。 このような基本的な理解に基づいて、大人たちが、日常生活の中で問題に対処する行動を実践したり、子どもをエイズから守るために学校や地域で教えたりすること。そういった目的で、エイズ学習会を開いています。学習会は、大人たちがとるべき行動、また、HIV陽性者との社会的共生や、互いに助け合う関係の持続や再構築など、地域社会としての問題の対処について話し合う機会となることも目指しています。 (2008年12月発行 会報第45号より)
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[第44号]地域社会の合意形成に必要なこと | ||
代表理事 永岡 宏昌
当会の事業は、地域に暮らす人々が、自ら規定する「豊かさ」を自らの力で達成していくことへの協力をめざしています。「豊かさ」については、個々の人の利益から派生するものではなく、地域社会での公共性を考えています。そして、教育・環境・保健の分野における具体的な形で、その向上に取り組んできました。活動しているムインギ県で、地域社会の抱える課題は、多岐にわたっています。外部からみて深刻と思われるものだけでも、エイズ、生活用水の質と量の不足、環境劣化、女性の出産に関するリスク、子どもの健康・教育などあります。生存の観点からみて、どれも重要な事柄ばかりです。これらの事柄に関して、日常生活の中において、個人レベルではそれぞれの優先課題があります。その地域の公共の課題の順位と重なることもあれば、ずれることもあります。 優先すべき課題として地域社会で合意が形成され、長年にわたって地道に改善が取り組まれてきたものに、小学校教育の改善があります。一方、エイズのように新たに登場し、急速に危機感が拡大する中で、さまざまな情報が地域に流入した課題については、住民は混乱していて、問題への対処意識の形成、そして共通課題としての合意が阻害されています。 出産における妊婦の死亡などの危険性については多くの住民が認めてはいるものの、行政が提唱する自宅分娩から医療機関での分娩への移行は、これまでの習慣との違いなどから進んでいません。また、焼畑や薪炭生産のように、個人の生存のための取り組みが、環境保全という地域の公共性と負の関係にあるものもあります。 地域社会として取り組むべきこれらの課題では、合意の社会的基盤にあたるものができていないため、行政の対処方針や指導はあっても、地域住民は「思うように動かない」状況になりがちのようにみえます。 当会がどのように課題への取り組みに協力していったらよいのか、あらためて考えてみます。まず、地域社会の既存のリーダーや学校関係者、一般住民と、さまざまな関係者の間で、課題に関する適正な知識や対処技能が広範に共有されるよう協力すること。そして、地域の人々が適正な知識にもとづいて自ら問題に対処するための話し合いの場をもつよう協力すること。さらに、その合意形成の結果から、当会と協働して事業の実施へと発展できればよいのではと考えます。 (2008年9月発行 会報第44号より)
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[第43号]騒動で考える社会的能力向上の重要性 | ||
代表理事 永岡 宏昌 ケニアで2007年の総選挙後に起こった騒動は、民族対立として多く報道されました。しかし、政治的な力や経済力をもつ富裕層、国民の多くを占める貧困層、そして中間層の関係でみることもできます。この層は、最近の経済成長で給与が上がったり、銀行から個人融資を受けられるようなったり、株式投資で利益を得たりしてきた人たちです。 近年、高級アパートに住み、車を持ち、数多くなった高級ショッピング・センターで大量の買い物をする中間層が、明らかに増えました。一方、大多数である貧困層の収入は変わりません。しかも、基礎食料品や公共バスの運賃が大幅に値上がりし、彼らの貧困の度合いを深める事態が展開していました。 そのような状況の中で富裕層は、民族を支持基盤として政治力を確保しようとする選挙戦において、民族対立の感情をあおりました。貧困層では、経済格差への不満が、民族対立へと転化していったと考えられます。結果として、民族でくくられた貧困層の人々が、暴力的な民族対立に誘導され、加害者となり、被害者となった、といえるでしょう。 総選挙から3か月たった5月28日から30日、横浜で第4回アフリカ開発会議が開催されました。ケニアの事例を経験しながらも、この首脳会議では経済成長の加速に関心が集中し、アフリカの貧困層の人々が抱える課題の解決を検討することの優先度が、相対的に下がったようです。 当会が事業を実施しているムインギ県は、幸い今回の民族対立には巻き込まれませんでした。これまでの事業で、当会は地域社会の中の特定の人やグループに偏った利益につながることを避け、地域住民の社会的能力向上に焦点を当ててきました。住民が新たな知識や技能を獲得し、地域の問題を自ら分析して、解決方法を見出すこと。問題解決に向けて話し合い、合意を形成すること。自律的に資源を集め、動員し、活動を実行していくこと。また、これらの過程が、まわりの人々や行政関係者とも円滑な社会関係の中で実行されていくことが大切です。このように、地域社会としての能力が強まっていくことに関心を寄せ、配慮しながら開発協力事業を実施してきました。今回の事件からも、地域に暮らす人々が、直面する問題について、適切な知識・情報に基づいて分析し話し合って、自律的な解決をはかる社会的能力の向上が重要であると思われます。 (2008年6月発行 会報第43号より) |
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[第42号]2007年度を振り返り、2008年度について考える | ||
代表理事 永岡 宏昌
2007年度は、施設拡充では、ヌー郡、ムイ郡については、2006年度までの実施事業で発生した課題の清算と、学校の自主活動の進捗を見守る期間としました。干ばつ時の緊急貸付金の返済の完了、自主的な新教室の建設などの成果が確認されました。グニ郡では、最初の1教室建設がほぼ完成。 (2008年3月発行 会報第42号より)
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