2001年度活動報告
(2001年1月1日〜2001年12月31日)

≪構成≫
1.2001年度活動の概要
2.教育事業
3.環境保全事業
4.保健医療事業
5.スラム教育事業
6.コンサルティング業務
7.国内活動

1.2001年度活動の概要
当会は、1997年9月よりケニア共和国に日本人調整員を派遣し、東部州ムインギ県ヌー郡及びムイ郡において、地域住民自らが貧困化から脱却するための住民エンパワメントに依拠した、総合的かつ持続可能な開発事業を実施している。本活動は、初等教育への協力を導入事業として、当会と地域社会との密接な信頼関係を醸成し、保健及び環境保全の分野に協力活動を拡大している。この教育・保健・環境保全が、総合開発の活動分野であるが、この3分野での活動実施にあたって、地域住民のエンパワメント、地域住民主導による事業形成と運営、地域住民・行政・当会の均衡のとれた協力関係の維持を共通する活動方針としている。

2001年度は、当会のケニアにおける活動実施に携わった日本人は9名であった。ケニア人については、常勤者延べ3名を雇用し、さらに建設(教育)・環境・保健の各分野の専門家3名とコンサルタント契約を結び質の高い活動実施を目指した。

教育分野については、ヌー郡及びムイ郡において、住民参加型の教室建設・補修、学校単位の教員トレーニング(ヌー郡のみ)、及び机いす修繕・製作への支援を通じて、地域の小学校の教育環境改善に協力した。また、ムイ郡において幼児育成事業の形成調査を実施した。環境保全分野については、ヌー郡の小学校における環境保全活動と教科学習(特に理科)の連係を目指し、環境モデル事業、教員・保護者の代表による環境研修旅行、及び「環境と理科」研究発表会を実施した。保健分野については、ムイ郡カリティニ区において、キティセ診療所を拠点とする地域保健事業形成の一環として、子どもの健康状態や家庭環境に関する調査、及び出産適齢期の女性を対象とする保健トレーニングを実施した。また、ムイ郡ムイ区においては、前年度に引き続き、住民主導で拡張が進められてきたムイ診療所の運営体制の確立に向けた協力を行なった。

一方、ナイロビ市ムクル・スラムにおける教育事業として、同地域在住の高校生を対象に、高校の定期休暇中(4月・8月・12月)の補習授業を開講した。また、2000年度にて完了した奨学金給付事業の支援を受けて高校を卒業した奨学生に対し、進路決定に関わるサポートを行なった。

なお参考までに、ヌー郡・ムイ郡の教育区ごとのKCPE(ケニア初等教育統一試験)平均点の推移は別表の通りである。1998年からの当会の協力活動が地域の教育環境の改善に貢献している、と地域の行政や学校関係者から評価されている。


2.教育事業
2−1.教室建設・補修(ヌー郡・ムイ郡)
ヌー郡においては、2000年度に開始した、ヌー教育区の小学校2校及びカビンドゥ教育区の3校における新規教室の建設(各1教室)、並びにカビンドゥ教育区の1校における既存教室の補修(2教室)が、保護者の積極的な参加を得て完了した。一方で、2001年度の初めに、教室建設の協力実施校の一部において資材使用記録が適切に更新されていない、または資材の一部が過剰に使用されてしまうなど、教室建設用資材の管理が徹底されていないケースが確認された。その後この問題について地域社会と当会が継続的に話し合いを行なった結果、当該小学校側から当会に資材を返却するケースも出るなど、事態が解決の方向へ向かうこととなった。このような地域社会による建設的な問題解決への取り組みを受けて、新たに、ヌー教育区の1校について、新規教室の建設への協力を開始することを行政及び学校側とほぼ合意した。

教室建設・補修については2001年度が実施初年度となるムイ郡では、5月より日本人調整員が郡内の各小学校を訪問し、詳細にわたるニーズ調査を開始した。その後、事業の開始及び協力対象校の選定に向けて行政と話し合いを進める段階から、上述のようにヌー郡において発生した資材管理の問題を未然に防止するために、資材管理の重要性に関する理解を地域社会全体として徹底させるよう働きかけた。2001年度はカリティニ教育区の3校について、新規教室の建設(各1教室)への協力に向けて各校との話し合いを進め、併行して保護者による現地資材の収集が進められた。うち1校では2001年11月に最終合意に至り建設作業を開始、他の2校でも同様に2002年1月の作業開始を予定している。

2−2.教員トレーニング(ヌー郡)
2001年度は、ヌー郡内の小学校を、当会ケニア人教育コーディネータと地域の教育行政官とで訪問し、対象校の全教員及び保護者を対象とした学校単位でのワークショップを実施した。各校で当会教育コーディネータのファシリテーションにより「教員の内発的な動機付け」をテーマとしながら教育環境や学校運営について、現状・問題分析を行い、今後の具体的な提案・行動計画を行なった。ヌー郡内の28校のうち、本年度は13校においてワークショップを開催した。

当会は、対象地域の小学校において、保護者の役割が学校運営のための諸経費の負担と学校施設の拡充のための労働力と資金の提供に限定され、教員の意欲や質、子どもの教育のあり方など教育環境の向上に関与する機会がみられないこと、特に保護者と一般教員が話し合う機会がないことが、地域の教育環境改善を妨げている1つの問題点であると認識してきた。このワークショップに保護者が参加することによって、保護者が教員への不満や疑いを表明する、あるいは教員が地域社会への警戒心を表明するなど直接的な対話が成立するケースがみられた。また、多くの学校の保護者が、教員への動機付けなど教育環境の向上に果たすことができる役割があることを認識した点も重要である。

2−3.机いす修繕・製作(ヌー郡・ムイ郡)
ヌー郡の小学校における机いすの修繕・製作に向けた協力事業は、当初2000年度に実施する予定だったが、地域住民との話し合いに予定を超える時間を要したため、2001年度まで延長することとした。支援の内容は、損壊した、あるいはしそうな机いすを自主的に修理することを希望する小学校に対する作業工具の供与である。3月にヌー教育区、カビンドゥ教育区の各教育区において事業説明会を行ない、参加者との意見交換及び質疑応答、現地の職人による机修繕の技術指導、作業工具の使用方法や手入れに関する説明、そして最後に作業工具の供与が行なわれた。結果として、郡内の全28小学校が作業工具の供与を受けた。

ムイ郡については、学校訪問及び地域住民との話し合いをより緻密に行ない、小学校におけるニーズ及び机いすの製作・修繕に取り組む実施意欲を、特に各校の学校開発計画との関連で調査した。その結果、カリティニ教育区から1校、及びムイ教育区から2校を優先対象校として選定した。これら3校への協力開始にあたって、10月に対象校の学校委員会委員をはじめとした保護者及び地域の関係者を対象とし、事業説明会兼作業工具供与式を実施した。その後各校では、供与した道具を活用して、机いすの修理・製作作業が実施されている。

2−4.幼児育成(ムイ郡)
8月下旬から11月下旬にかけ、日本人幼児育成専門家を派遣し、ムイ郡における幼児育成事業の実施可能性調査を実施した。ムイ区・カリティニ区の各区より3園ずつ公立幼稚園を選定し、各園につき3日間を実地調査にあてた。午前は幼稚園において、保育内容の参与観察、及び幼稚園(及び併設小学校)の概要や教員に関する面接を実施し、午後は園児の家庭訪問を通して、家族や生活の様子、及び親や子ども自身について調査した。

調査の結果、地域の人々は幼稚園を教育の場としてのみ捉える一方、子どもの健康を守り増進させるための場としての期待が薄いこと、幼稚園教員は小学校教員の10分の1程度の給与で、ほとんどの場合、年齢層の多様な多くの園児を1人で担当しているという厳しい勤務条件に置かれていることなどが判明した。今後の協力活動の方向性としては、幼稚園における教育と保健の適切なバランスを視野に、教員の意欲を高めていくための様々な活動が望まれる。


3.環境保全事業
2001年度は、環境活動の実践と教科教育(特に理科)との関連付けをテーマとして、2000年度に開始したヌー郡の小学校6校におけるモデル事業(学校菜園・植林3校、植林1校、木工・手工芸1校、養蜂1校)が確立・定着するよう、集中した協力を実施した。具体的には、環境活動を活用した実践的な理科学習の実践事例(植物の生長、土壌流失・保全、気象観測、リサイクル、人体の仕組みなど)をモデル事業実施校の生徒が発表しあう研究発表会を7月に実施した。この研究発表会には、ヌー郡全28小学校から各5名を限度として、主に8年生の生徒をオブザーバーとして招待したところ、実際には発表生徒80名を含む計312名(23校)が参加した。

この研究発表会の質を高めるために、モデル事業実施校の理科教員を対象として6月にワークショップを開催し、実践活動案や生徒指導法について話し合った。このワークショップや研究発表会への準備と並行して、各モデル校において教員と生徒による実践活動を行えるよう、技術的な助言を適時提供してきた。また研究発表会後は、学校訪問や簡単なアンケートの実施など、研究発表会の内容や成果を評価し、今後へつなげていくための活動を実施した。

さらに、環境活動の質的充実にも配慮し、モデル事業の担当教員並びに保護者代表(計25名)を対象とし、キツイ県で日本の国際協力事業団(JICA)の協力により実施されているケニア半乾燥地社会林業普及モデル開発計画(SOFEM)への研修旅行を、6月に1泊2日で実施した。参加者は、植林の意義、植林のための種子の処理方法、及び果樹の接ぎ木等について、講義と実習を通じて理解を深めた。研修旅行後のフォローアップも、各モデル校での教員や保護者との話し合い等を通じて実施した。


4.保健医療事業
2001年度は、ムイ郡カリティニ区のキティセ診療所を拠点とする地域保健活動の形成を目的に、地域の保健医療従事者との関係構築、及び過去に実施された保健活動の確認から取り組み始め、3月には日本人保健医療専門家を派遣し、地域の保健衛生・家庭環境調査を実施した。これらの調査の結果、カリティニ区では、地域住民が主体的に取組むプライマリ・ヘルスケア活動が実施されていないと思われること、子どもたちの多くが栄養不良状態にあること、離乳食に関連していると推測される乳幼児の下痢が多くみられること、飲料水をはじめとする生活用水の家庭レベルの取り扱いに衛生上の問題が多くみられること、子どもたちが様々な疾病を抱えていることなど、新たにプライマリ・ヘルスケア(PHC)事業を形成する必要性が確認できたため、事業形成の方法について具体的な検討を重ねた。

当初、診療所のPHC事業拠点としての機能の充実及び、地域保健婦・士(CHW)・伝統助産婦(TBA)・伝統治療者(TH)など村の保健サービス提供者の人材発掘・グループ化・人材育成を通したPHCシステムの構築を想定していた。しかし、ムイ郡の現状をみると、これらの保健サービス提供者のトレーニングを実施しても、その後地域住民へ保健情報が体系的に伝達される、あるいは保健サービスが的確に提供されるような環境はまだ整備されていない。そのため、当会が目指す住民のエンパワメントを基本としたPHCシステムの形成は、村の保健サービス提供者を直接の事業対象としてトレーニング等を実施する前段階として、広範な地域住民を直接対象とした保健衛生・栄養に関する基礎知識と関連する生活技能の向上、保健サービスの受け手としての能力向上、地域でのPHCシステム構築の必要性に関する理解と構築に主体的に取り組むための内発的な動機づけが重要である、と判断した。なお、診療所をPHC活動の拠点として充実することも、診療所と地域住民とをつなぐ仲介者となる村の保健サービス提供者が育成されないのであれば、事業としての優先度は低くなる、と判断した。

そこで、地域住民を直接対象とした保健衛生・栄養に関する基礎知識などの向上を図る方法として、出産適齢(18〜30歳程度を想定)の女性を対象に、家庭生活や育児に関連する基礎保健トレーニングを繰り返し実施することとした。これによって、多数の女性が、それぞれの家庭で保健衛生・栄養の改善に取組むこと、更に、それらの女性が、トレーニングで習得し家庭で実践する保健衛生・栄養の知識並びに技能を周辺の親戚や隣人に伝えていく効果を図ることとした。このトレーニング・プログラムは、15人から20人の出産適齢の女性が、連続した3日間のコースに全て参加することを前提にした学習者参加型ワークショップの形態をとり、母子保健と家族計画、食品栄養と栄養不良問題、生活用水の家庭での取扱いと環境衛生、母乳育児と離乳食、食品衛生、身体計測、地域で一般にみられる疾病とその予防、身体の衛生、住居環境、性感染症(HIV/AIDSを含む)などを課題として取り扱う。

11月から12月にかけ、カリティニ区ユンブ準区及びイティコ準区にて、それぞれ第1回ワークショップを実施した。参加者数は、ユンブ準区が16名、及びイティコ準区が17名であった。いずれの準区についても、初日に参加した者が全員最終日まで参加し、受講を修了した。各回最終日の参加者アンケートによれば、参加者の多くがワークショップの内容を高く評価し、継続的な開講を希望している。


5.スラム教育事業
2000年度に引き続き2001年度も、ナイロビ市ムクル・スラム群に居住する高校生を対象に、高校の定期休暇中(4月、8月、12月)の補習授業を開講した。参加者は、2000年12月期には20名程度だったが、2001年度は徐々に増加し、2001年8月期・12月期には60名を超えた。この補習授業では、教員資格、もしくは指導経験を有するケニア人を講師とし、多くの生徒が苦手とする理数科の講義をはじめ、一般教養の講義や社会科見学、さらにケニアで活動する日本の青年海外協力隊々員有志の協力を得て理科の実験授業を採り入れるなど、興味を持って学習できる機会の提供を目指した。前年度に引き続き、参加者から一律低額の参加費を徴収し、当会の協力に対するスラム地域住民の依存心を最小限に押さえること、また住民自身も事業に貢献しているという自立心を促すことを目指した。2001年8月期より、ケニア人講師陣による資金調達活動を試験的に導入したところ、寄付金の要望書を提出した現地企業のうち1社より、1万ケニアシリング(約1.6万円)の寄付金が供与された。将来的に、補習授業の実施を地域社会に委譲することを想定している当会は、こうした講師陣の自発的な活動が今後徐々に定着していくことを期待している。


6.コンサルティング業務
在ケニア日本大使館から草の根無償資金協力のコンサルティングとして資金供与が実施された案件に対するモニタリング業務と申請案件に対する実施可能性調査を受託した。

6−1.モニタリング
前年度より2案件が継続となり、2001年度に完了した。新規に5案件を受託し、翌年度への継続調査となった。

6−2.実施可能性調査
前年度からの継続調査3案件は、2001年度に完了した。2001年度は5件の実施可能性調査を受託し、翌年度への継続調査となった。


7.国内活動
7−1.会報等の発行
・会報「CanDo アフリカ」を4回(第14〜17号)を発行(A5判8ページ。但し14号は12ページ)。編集は佐久間理事が担当。
・ホームページの再構成を行ない、その後更新を継続。
・電子メールによる会員向け情報配信サービスは、事務局の都合により開始を2002年度まで延期。
・他機関の広報誌等における当会の組織紹介記事の掲載のために、下記機関に対して投稿・情報提供を行なった((財)国際開発救援財団「FIDR News」(2001年9月発行)、(財)国際協力推進協会「国際協力プラザ」(2001年11月発行)、(株)国際開発ジャーナル社「国際開発ジャーナル」(2002年1月発行)。

7−2.イベントへの参加
下記のイベントに参加・出展し、スタッフと理事・会員有志による活動紹介、パネル展示、ケニアのTシャツ・紅茶・その他民芸品等の販売等を行なった。
・2月3〜4日:TOKYO地球市民フェスタ(東京国際フォーラム)
・3月24〜25日:アフリカン・フェスタ(東京・日比谷公園)
・10月6〜7日:国際協力フェスティバル(東京・日比谷公園)

7−3.報告会・講演会の開催
・2月3日 − 小学校環境教育・保全活動報告会(報告者:國枝事務局長。場所:上記「TOKYO地球市民フェスタ」)
・10月31日 − 活動報告会(報告者:國枝事務局長。場所:東京・文京シビックセンター)
・12月26日 − 幼児育成事業形成調査報告会(報告者:石井理事。場所:札幌・札幌市中央区民センター)
・その他、各種団体・グループから機会をいただき、國枝事務局長による講演・活動発表を行なった(東海大学健康科学部(学部2回・大学院2回)、JICA神奈川国際水産研修センター、教育協力NGO研究会)。

7−4.外部の会議・ネットワークへの参加
政策提言やネットワーキングを目的とする各種の会議・研究会・ネットワークに参加した(JICAケニア国バリンゴ県半乾燥地域農村開発計画調査・各省検討会個別委員(永岡代表理事)、JICAアフリカ農村開発手法の作成・第3年次国内研究会委員(永岡代表理事)、教育協力NGOネットワーク・研究会(永岡代表理事・國枝事務局長)、他)。


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