2007年
[第41号]危機意識と対処意識について
代表理事  永岡 宏昌

ムインギ県ヌー、ムイ、グニ郡では、近年、エイズが日常化し、多くの人々が親戚や隣人のその発症や死を体験しているようで、エイズに関する危機意識は高ま り、共有されているといえます。理由のわからない隣人の死や疾病をエイズと関連づけた噂が広まるなど、パニック状態にもなっています。このような状況の 中、当会が行なっている学校地域社会の関係者を対象としたエイズ教育に関連する事業で、エイズ問題へ取り組む意識をもったリーダーが育ってきています。

しかし、地域リーダーが、当会エイズ学習会への申請を地域住民へ提案しても、拒否される状況も報告されています。その理由はさまざまです。HIV感染を呪 術による呪い、神の罰と見る。不道徳な性交渉をする人のみの問題など、当人と関係のない事象と逃避的に考える。生活の貧困状況など他の問題と比較して、軽 微な問題ととらえる。親子や親戚など近しい関係で、性行動について話すのは禁忌であるといったことなどがあげられます。また、エイズ問題を積極的に学ぼう とする姿勢をみせることで、感染を疑われ、周りの住民から社会的に排除されることへの恐れもあるようです。エイズ学習会が開催されても、参加を約束した人 が、当日になると欠席するケースは、残念ながら少なくありません。

当初、住民グループがエイズ学習会の開催を申請する際の規則を明確にし、周知すれば、特に障害なく相当数のエイズ学習会が開かれ、多くの地域住民が参加するものと想定していました。しかし、現実には参加を躊躇する意識が強く働く人も多いようです。

地 域住民のエイズへの危機意識は高まっています。しかし、この危機感から、問題の本質を理解し、解決にむけた行動を志向する「対処意識」とでもいうようなも のの形成へとは、十分には展開していないのではないか、と思われます。外部要因や制御不能なものに理由を求めたり、エイズを否定したり、思考停止に陥った り、と住民の意識は、対処とは逆に働く傾向も強いようです。

多くの地域住民が、当会のエイズ学習会の方針に同意して積極的に参加し、エイズと向き合うようになるには、地域リーダーの説得力がカギになると思います。 エイズ問題への対処意識をもった人たちを、地域リーダーとしてさらに数多く発掘し、開催に向けて地域住民を先導する力をつけていくよう育成することが、当 面の課題であると思われます。


(2007年12月発行 会報第41号「活動の方向性」より)


[第40号]地域社会のエイズ教育への協力

代表理事  永岡 宏昌

活動地ムインギ県では、ほとんどすべての人が、拡大家族の誰かのエイズ死を経験している、といわれるほど、エイズが日常化しています。HIV感染者・エイズ患者、そしてその家族など社会的影響を受ける多くの人々がいます。
地域の中では、HIV感染は不道徳な性交渉の結果であり、外部者が地域に持ち込んで広めている、と考える意識が根深くあります。エイズを脅威としてとらえ て、疑わしい人々を避けたりすることによって、社会的に排除する言動が生じています。地域社会が、深刻な分断の危機にあると思います。

一方、現実の感染リスクは、患者・感染者の介護や出産介助、皮膚を傷つける刃物の使用など、性交渉以外の日常生活の中にも多くあります。

当会は、地域のさまざまな層の多数の住民を対象に、地域社会へのエイズ教育に取り組んでいます。エイズ問題を、理科的知識の面と社会問題の面の両方から、地域固有の状況に即して包括的に理解することが、解決のための不可欠な基盤と考えています。

これまで、地域の女性保健リーダー育成のための保健トレーニングの一環として、エイズ教育を実施しました。また、エイズ問題の要点を絞って約3時間、直接伝えるエイズ学習会を、学校、住民グループの要望に応じて実施しています。

そして、新たに地域リーダーを対象とした1日間のエイズ教育を開始しました。地域の中で、周りの人々へエイズ問題を提起し解決してく意欲のあるリーダーを 発掘するため、条件を曖昧にして、トレーニング応募者の自己申告としました。数多くのキリスト教会の牧師も参加し、コンドーム実技演習では「HIV感染予 防の全ての方法を知るのは当然」との発言があるなど、みな積極的でした。宗教関係者の多くが、不道徳な性交渉を結びつけてコンドームに否定的であったこれ までと比べ、地域の現実の中で、宗教関係者も変わり始めたことの表れと思われます。

今後も、地域のさまざまなリーダーへのエイズ教育、ならびにリーダーが集める人々へのエイズ学習会を継続して、多くの人々がエイズ問題の基礎知識を持ち、 地域社会としての対処方法について話し合う機会を作っていきたいと考えています。そして、これらエイズ問題に取り組む地域住民と、同じく取り組む地域の小 学校教員が、子どもたちをエイズから守る社会を形成するために、話し合う場を数多く作りたいと考えています。

(2007年9月発行 会報第40号「活動の方向性」より)



[第39号]小学校のエイズ教育への協力

代表理事  永岡 宏昌

ケニアの小学校教育では、2006年度の学習指導要領の改訂で、全ての教科のなかでエイズ問題を多面的に教えるための主流化が完了しました。理科で は、ウイルスの感染メカニズムや感染経路など生物学的知識を教え、英語やスワヒリ語の教科書でも関連する話が取り上げられています。エイズ問題は国家災害 であり、緊急対応が必要との認識から、これを学校教育の中で、包括的に教える先進的な教育政策がとられているのです。

ムインギ県では、教員がエイズ教育を避ける傾向にあることが確認されています。全く触れないか、教科書の記述を表層的に流すことが多いようです。さ まざまな理由を聞きます。教室にエイズ孤児がいる。自分の子どもも教室にいるので、性に関する話はできないなど。また、校長など経験の豊かな教員は、地域 の宗教指導者でもあります。これまで教会で住民に教えてきた「エイズ」と、授業で教えるべきエイズがかけ離れていることもあるようです。一方、近親者や同 僚のエイズ死などの体験から、子どもたちにしっかり教えたい、と考える教員も少なからずいます。しかし、政府によるエイズ教授法の研修も行なわれていない こともあり、取り組みの糸口がつかめていないようです。

そこで、当会は休校期間中に、教員の自主参加によるエイズ教育トレーニングを開催しています。不道徳な性交渉と強く結びつけた風説の流布、脅威のみ を強調する風潮が、社会的な排除の意識を生み、エイズ教育を難しくしている状況を確認します。その上でエイズの生物学的知識の講義、直接教える理科の教案 作りと模擬授業、教科書の記述の批判的分析、ふれられていない単元での取り扱いなどを、参加型で学びます。

参加した教員には、校長を説得して、同僚教員にエイズ授業を公開し、それをふまえてエイズ教育について話し合うことをすすめています。さらに、教員 同士協力して、エイズ子ども発表会を開催することも働きかけています。子どもたちがエイズについて学んだことを、歌や劇、研究発表などにし、保護者に参観 してもらい、その後に、教員と保護者とでエイズから子どもを守る具体的な方策について話し合うという内容です。

2006年度には、少数ながら、これらの活動が実施できた学校がでてきました。今後も、意欲のある教員の発掘、トレーニングの実施をとおして、多くの教員が、自信をもって取り組んでいけるエイズ教育の普及に協力していきたいと考えています。

(2007年6月発行 会報第39号「活動の方向性」より)


[第38号]2006度を振り返り、2007度について考える

代表理事  永岡 宏昌

2006年度は、施設拡充では、ヌー郡、ムイ郡で教室の建設またはそれに相当する補修を予定していた26の小学校で、ほぼ1年の期間で、それぞれの課題を解決し、作業を完了することができました。事業実施の中で、地域住民の社会的能力が向上していることが確認できました。

保健では、地域の一般女性を対象とした保健トレーニングを広範に実施しながら、地域社会で取り組むエイズ問題への対処について、彼らが議論する機会の提供を続けました。そして、子どもが通う学校との連携を促しました。
一方、ヌー郡で、小学校教員を対象として、正規の授業のなかでエイズ問題を的確に取り扱うための、エイズ教育トレーニングを形成しました。この問題に熱心な一部教員との関係作りが進みました。

幼児育成では、幼稚園教師の主導による保健活動の形成や成長の記録作りが継続するよう、協力を行ないました。

環境では、ヌー郡の小学校の中に、新たに環境活動に取り組む学校があらわれました。

なお、ヌー郡では、1998年から置いていた事務所を閉じました。

2007年度は、学校地域社会に着目した保健・エイズ教育を通して、地域社会がエイズ問題に対処できるよう協力したいと考えています。地域社会に対 しては、一般女性を対象とした保健トレーニングの継続と、さまざまな住民グループを通して、多くのエイズ学習会の開催を目指します。小学校では、子どもの 教科理解とライフスキル向上につながるエイズ教育が、教室で実践されるよう、教員へのエイズ教育トレーニングの内容を充実させていきます。

施設拡充については、グニ郡で少数の試験的な教室建設にとどめながら、その後の展開について検討します。ヌー郡・ムイ郡では行ないません。

幼児育成では、幼稚園教師による保健活動の形成への協力を継続します。

環境で、グニ郡での小学校での環境活動の形成、地域住民による保健グループ活動に連携した土壌保全活動や、農業活動の形成に協力していきたいと考えています。

なお、ナイロビのムクル・スラム群での高校生対象の補習授業については、地元での講師の確保と参加費の徴収努力がみられるため、当面継続していきます。

(2007年3月発行 会報第38号より)