2006年
[第37号]事業調整員の役割と事業の規模
代表理事  永岡 宏昌

当会が、ムインギ県で実施している事業では、教室の建設であれ、トレーニングであれ、日本人の事業調整員、ケニア人の専門家、現地で雇用する現地助手とで、事業を進めています。

事業の品質に直接かかわる、現場での住民や教員への技術指導、専門的な助言、トレーニングの講師を務めることなどは、専門家の業務です。しかし、専門家のみでは、事業の包括的な品質を保証できません。むしろ、専門家と一緒に働く事業調整員の役割が大切だと考えます。

事業調整員は、事務所のスタッフや専門家と相談しながら、当会の年次計画やドナーに承認され予算が確定している個別の事業計画にそって、詳細な事業実施計画 を作ります。そして、専門家に、内部レポート、マニュアル、トレーニングの手順書など、実施に必要な文書の作成を依頼します。事業調整員は、専門家からの これらの提案が、計画や当会の活動方針にそっているか確認しながら、専門家も交えて事務所での合意を形成していきます。

現場では、専門家が行なう 住民や教員への指導、助言やさまざまな発言が、事前に合意した実施計画に沿ったものであるか、その場で確認し、必要があれば補足や訂正を求めるのが、事業 調整員の役割です。専門家の話が、地域の言葉であるカンバ語や国語であるスワヒリ語でなされる場合、現地助手が、事業調整員の耳元で「ささやき」続ける英 語への同時通訳を行ないます。

また、事業調整員は、専門家や助手の協力をえて、住民や教員の反応や雑談、裏話なども収集します。それによって事業の効果や改良すべき点を検討し、必要に応じて、事業の迅速な軌道修正を行ないます。

このように細心の注意をはらって実施することで、事業の品質の向上を心がけてきました。その事業は、良質のモデルになれるかもしれませんが、規模が小さくな らざるをえない、ともいえます。同様の事業を繰り返したり、同じ地域でさまざまな事業を行なったりする中で、経験を蓄積し、定型化できます。そして、事業 調整員が新たな役割を担うことによって、品質を低下させずに事業の規模を拡大することができるかもしれません。

この1年かけて取り組んできたヌー郡・ムイ郡での27校での教室建設、構造補修は、昨年までの年間数校への協力から、規模拡大を経験するひとつの試みでした。その効果の検討を、この年末に行ないます。

(2006年12月発行 会報第37号「活動の方向性」より)



[第36号]継続性に欠かせない自己資金の充実

代表理事  永岡 宏昌

当会は、設立した1998年より、日本人調整員が事業対象地域のムインギ県に住みこんで、学校や地域住民、行政官との直接的な協力関係を築いていくことを、事業の中核にすえています。そして、事業の技術面をケニア人専門家に担ってもらっています。

実施にあたり、事前の計画通りに進めるのではなく、過程で調整員が住民のニーズを敏感にとらえ、組織として迅速に状況を分析して、柔軟に事業の内容を変化させてきました。新たな事業が必要とされるときには形成し、事業の質的向上をめざしてきました。

この形態で、優先する開発の課題を日本人調整員が現場で把握し、短期間で事業に反映させることができました。しかし、多くの日本人スタッフがケニアに滞在することになり、元来、比重の大きい日本人に関連する経費が、なお、多くなっています。

日本人調整員の派遣、滞在の費用を負担できる資金の確保が、設立当初より課題でした。資金源のうち、この費用を含めることを認める民間助成団体の助成金や、 外務省・JICAなどのODA資金など、複数の資金を確保することを優先課題としました。事業申請書と報告書とを品質の高いものにして、組織の信頼を得る ことが、ある程度順調に進み、資金と事業規模を拡大できました。しかし、事務局に人員を増やせなかったこともあり、もうひとつの資金源である会費収入や、 個人の寄付による自己資金の充実が、極端に伸び悩むことにつながりました。

その問題は、開発の課題への対応にかかわってきます。例えば、ムインギ県では、住民の生存に関わる課題、エイズ問題への取り組みが非常に必要とされていま す。当会では、危機感をもつ地域住民や小学校教員のグループと、地域の大人たちの性行動の変容、コンドームの普通化、子どもの性的虐待の防止などを真剣に 話し合う場を作れるようになりました。エイズ学習会やトレーニングといった取り組みをしていますが、特定の地域と期間を限定した公的な資金だけでは対応で きない状況です。

「事業期間が終了したので」
「あなたの地域は、事業対象ではないので」

このような理由で、エイズ問題を真剣に学びたい、ひとりでも多くの子どもをHIV感染から守りたい、と考える人たちのトレーニングの要望を、断ることができるのでしょうか。

今、柔軟に対応できる自己資金の充実が、本当に必要であると強く感じています。

(2006年9月発行 会報第36号「活動の方向性」より



[第35号]学校地域社会に着目する

代表理事  永岡 宏昌

当会は、ケニア共和国東部州のムインギ県で事業を開始した1998年から、この地域における小学校の役割に着目してきました。

政府の財政悪化と構造改革のため、行政機能やサービスが縮小しているケニアにおいて、小学校は、地域に最も密につながる公的なネットワークであるともいえ ます。そのため、単に子どもに学校教育を提供する場としてばかりでなく、地域住民が新しい知識や情報をえるセンター的な機能を促進することも視野に入れて いました。

2005年度に、ムインギ県ヌー郡とムイ郡とで、地域住民・保護者を対象としたエイズ学習会を、地元の小学校で開催する事業の提案をしました。ムイ郡では、多くの小学校がエイズ学習会を要望し、実施にいたったのですが、ヌー郡では、実施に消極的でした。 

ヌー郡とムイ郡は、1999年まではひとつの郡であり、地域住民も同じカンバ人で、経済状況なども大きな違いはありません。また、会議などでの発言や非公 式な聞き取りによると、ヌー郡でもムイ郡でも、住民はエイズ問題を深刻に受け止めてエイズ学習会を望んでいました。一方、校長は開催を避けようとする傾向 がみえました。

当会の事業をみると、ヌー郡では、校長を窓口とした小学校での事業ばかりです。しかし、ムイ郡では、小学校の事業と並行して、地域の多くの女性を対象とした保健トレーニングや、保健活動の促進事業も行なっていました。

小学校での事業を中心とし、そして小学校を窓口として地域住民との関係構築をめざす協力形態を取ってきたのが、ヌー郡。小学校への協力と同等の比重で、当 会が地域住民と直接の関係を持つ保健事業を展開してきたのが、ムイ郡。比較検討してみると、ムイ郡の方が、住民から学校への働きかけが、より機能して、エ イズ学習会実施の差になったと考えています。

そこで、地域社会の中で、それぞれの小学校が通学圏とする村々を、「学校地域社会」というひとつの単位として着目しました。校長から学校地域社会への働き かけばかりでなく、住民から小学校への働きかけを、当会の事業展開のなかで具体的に位置づけていきます。それによって、より効果的・自律的に、子どもの教 育と健康を保障していく基盤整備につなげていくことが可能となると考えています。

(2006年5月発行 会報第35号「活動の方向性」より)


[第38号]2005年度を振り返り、2006年度について考える

代表理事  永岡 宏昌

2005年度は、これまでの教室建設・補修の経験をもとに、多くの教室の建設と補修に取り組むことにしました。10月より1年の期限を設けて、ムイ ンギ県ヌー郡、ムイ郡の26教室の建設、または相当する補修を実施することになりました。幼児育成では、体重計と健康カードの供与により、幼稚園で成長の 記録が普及し始めました。

地域住民が、エイズ問題を深刻な脅威として急速に認知するようになったと思われるのに呼応して、当会もエイズ問題への取り組みを強化しまし た。保健トレーニング修了者へのエイズトレーニングの追加や保健トレーニング内容の変更、地域の大人たちを対象としたエイズ学習会の開催、小学校でのエイ ズ教育の促進などに取り組みました。

エイズ問題は、地域住民が深刻に捉え、具体的に知ろうとする一方、さまざまな理由があると思いますが、校長はできれば避けようとする傾向にあ ります。このように校長と住民の意向とが異なる場合、校長のみを窓口とした事業展開には限界があります。住民にも直接働きかける関係作りも並行して行なう ことの重要性を確認することになりました。

地域的には、ムインギ県グニ郡への事業展開が本格化しました。

2006年度は、ヌー郡での総合的な事業展開を完了することになります。2005年11月ころの雨季の降雨がムインギ県全域でほとんどなかったた め、深刻な干ばつのなかでの事業となります。当会がめざす住民の社会的能力の向上につながることを考え、干ばつ下の事業展開を慎重に検討します。

また、それぞれの小学校と、通学圏内の村々をまとまりとする学校地域社会を明確に意識し、それぞれとの関係作りをすすめて、相乗効果を期待します。

教室建設・補修については、2005年度に設定した目標の達成を目指します。

幼児育成では、幼稚園での成長の記録の普及と継続化を基盤として、保健活動の充実と、保健事業との連携をすすめます。保健については、基礎的な保健知識・技能に基づく保健活動、ならびにエイズ問題に対処できる学校地域社会の形成を目指します。

地域としては、ヌー郡での事業の収束と、グニ郡でより発展させることを目指します。

なお、ナイロビのムクル・スラム群での高校生対象の補習授業については、対象者ならびに地域社会の参加度への疑問から事業の休止も含めた見直しを行ないます。

(2006年3月発行 会報第34号より)